44人が本棚に入れています
本棚に追加
「木村さんはまたここに来たりしますか?」
「さあ、どうだろ。どうして?」
「なんとなくです。またお話しできたら嬉しいかなって」
何の打算も含まれていない素直な言葉。悪い気はしなかった。
「来るとは約束できないけど、もし来た時は声をかけるよ。――じゃあ、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます!」
明るく答えた久本さんに軽く手を振って、その場を離れた。本を元の棚に戻し、そのまま図書館を出ることにした。
少し時間は早いけど、もうバイト先に向かおう。そう決めて歩を進めながら、歩く足取りが来た時よりも軽くなっていることに気付いた。人と話をしたせいだろうか。
さっき会話をした子の名前を思い出しながら、確認するように頭の中で繰り返した。
久本さんだっけ。久本香月――。
「か、ず……」
声に出して、つい足を止めてしまった。心の中でその音を繰り返すと、なんだか意味のわからない笑いが込み上げてくる。
何の悪戯だろうか、とため息をつきつつ上を仰いでしまった。
雲一つない青い空が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!