1-1:午後0時の戦場

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「ありがとうございましたー」 「味噌ラーメン温めお待ちのお客様ー!」 「スプーンでよろしいですか?」  心なしか、レジの回転スピードがゆっくりし始めた。  ネズミーランド……とまではいかなくても、遊園地のアトラクションの待機列並みに延びていた人の繋がりが、だいぶ短くなっていた。  レジ担当の女の子たちにも、いつもの笑顔が戻り始めている。  向かいの壁にかかっている時計を見ると、12時20分を指していた。  そろそろだ。 「佐藤くん、からあげ様ひとつお願い」 「あ、はい」  宮下さんのヘルプに入りながら、数珠のように規則正しく並ぶ頭の列を、前から順番に目で追っていく。  ところどころ身長差があって凸凹感はあるものの、なにも言われていないのにここまできっちり並べるところがいかにも日本人らしい、なんて根拠のないことを考えた。  そして、10個目の頭の上で、ぴたりと視線を止めた。  ーーいた。  その人は、ほかの人たちより半個分抜け出した頭を時折上下に動かしながら、前に立つ同僚らしき人と何か言葉を交わしては、くつくつと笑っていた。  その度に、短い髪がサラサラと揺れている。  時折、愉快そうに細められるアーモンドアイが、色素の薄い髪の間から見えた。  その人に話しかけている同僚らしき男は、その身長差を埋めるために不便そうに首を曲げながらも、楽しくて仕方ないといった風に次から次へと言葉を紡いでいる。  なにがそんなにおもしろいのか気になってついジッと耳をそばだてていると、その人がふとこちらを見た。  ドクンーー…と胸が高鳴る。  見ていたことを気付かれた気がして、思わず手元のからあげ様に目を落としてから恐る恐る顔を上げる。  その人は、また同僚との会話に意識を戻していた。  なんとなく、ホッと息が零れた。 「宮下さん、これ、からあげ様」 「ありがとう。あれ、佐藤くん、どうしたの?」 「え?」 「なんか顔が赤いよ。大丈夫?」 「あ、はい、大丈夫です」 「ならいいけど」  宮下さんは、特に気にした様子もなく接客に戻った。
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