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「ほんと、よく降るなあ……」
心地よいBGMだった雨音は徐々に激しくなり、午前が終わる頃には幾層にも重なった
雨が、カーテンのように窓全体を覆っていた。
輪郭を失い、透明な殻を被った生き物のように蠢く外の景色をぼんやりと眺める。
すると、右肩が揺れた。
読んでいた雑誌から視線を上げて、理人さんが俺を覗き込む。
「雨、嫌いだったか?」
「嫌いではないですけど、晴れの日の方がテンションは上がりますね」
それに、ゴールデンウィーク前にリスケした動物園デートが、雨のせいでどんどん順延されているのも腹が立つ。
子供みたいにはしゃぐ理人さんを、早く見たいのに。
「んっ」
無意識に尖っていたらしい唇を、啄ばまれた。
瞬きの音が聞こえそうなほど近くで、理人さんが笑う。
「ちょっと待ってろ」
「え」
「いいもの持ってくる」
意味深な視線を寄越して、理人さんは書斎に消えた。
ついていくべきかどうか迷っていると、すぐにぐぐもった声が俺を呼んだ。
柔らかな絨毯を踏みしめ、開けっ放しの扉をノックする。
振り返ったのは、薄暗い室内で弾ける眩しい笑顔。
「あった!」
理人さんが差し出していたのは、紙の束だった。
色褪せて黄ばんでいるが、びっしりと書き込まれた文字は綺麗に残っている。
黒い紐で綴じられたそれを受け取ると、ずっしりと重かった。
「なんですか、これ。『最も効果的なてるてる坊主に関する検証』?」
「俺の小学校の夏休みの自由研究。雨が降るたびに母親が頭痛いって辛そうだったから、よくてるてる坊主を作ってたんだ。何回も作るうちにその効果が気になって、研究材料にした。健気だろ?」
「健気、というか……」
ペラペラとめくったそれは、手書きではあるけれど、会社の企画会議に出しても通用するんじゃないかというくらいわかりやすくまとめられていた。
「すごいですね。素材別、形態別、表情別……データが細かい!」
「三年越しだからな」
「三年?」
「小四の夏に素材別、小五の夏に形態別、小六の夏に表情別と最終検証をまとめて提出した」
「理人さんって何者ですか。小学生男子の作るものじゃないでしょ、これ」
確か俺の自由研究は、空き瓶に紙粘土で作った貯金箱だった。
「楽しかっただけだよ」
「楽しかった?」
「てるてる坊主を作ると母親が喜んでくれたから、どんどん夢中になった。それだけだ」
「理人さん……」
「あーごめん、しんみりさせたかったわけじゃなくて」
はにかんだような笑みが、照れくさそうに埋もれて消えていく。
長い指が、素早く紙を繰った。
「俺の研究結果によると、今日の雨に効くのは……これ!」
「『梅雨の長雨に最適なてるてる坊主』?確かにピッタリですね。えぇっと……素材はアルミフォイルで、形態は頭が八面体、身体が円柱で、表情は……プッ、なんですか、お父さんが酔っ払った時の顔、って」
内容も、それを綴った達筆な字も、どこをとっても小学生とは思えないのに、ところどころに幼さがにじみ出ていてかわいい。
思わず夢中になって目を通していると、理人さんがくつくつと笑った。
「作ってみるか?」
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