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薄いグレーの細かい縞柄の着物に紺色の帯を結び、同じ柄の羽織を羽織っている。
その和装の男性は、天気の良い今日なんかはちょっと蒸し暑い位なのに、涼やかな風情でそこに立っていた。
顔立ちはスッと鼻すじが通っていて、切れ長の目も涼しげで、一瞬、その日の蒸し暑さを忘れて見惚れてしまう程のイケメンだった。
そんなイケメンが、私なんかに何の用があるの?
「お嬢さんは、 お一人ですか?」
再度、同じ質問をされた。
あまりにも、紳士的でオマケにイケメンだったから、思わず警戒心を解いた私は答えてしまっていた。
「あ、はい。今日は一人です。」
「そうですか? 今日はお休みですか? もしよろしかったら、お茶でも如何ですか? 美味しいスイーツの店を知ってるんですが…」
「えっ? スイーツ? 私、甘い物大好きっ、あ、あ、今日は休みで、友だちの誕プレ買いに来てて…」
ヤバイ…、テンパって余計なコト言った…。
「そうですか? 甘い物お好きなんですね? ご一緒に如何ですか?」
涼やかで上品な口調と物腰なのに、どこか有無を言わさない雰囲気に呑まれて、私は、思わず頷いていた。
「は…、はい…。」
「甘い物も色々ありますが、お嬢さんは、どんな物がお好きですか?」
「あ…、お嬢さんてゆーの、やめて下さい。 なんか恥ずかしいです。 私、全然お嬢さんじゃ無いし…」
「分かりました。 では、何とお呼びすれば良いかな?」
「ヒロコ…です。」
お嬢さんて呼ばれるのも恥ずかしかったけれど、私は、この『広子』と言う、古臭い平凡な名前も嫌いだった。
そんな事を考えていて、この人の口調が変わっていた事に気付かなかった。
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