あなたにだって叶うこと

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 人は夢を叶える入り口に立ったとき、具体性より、ありきたりの現実に納得するのではないだろうか。少なくともわたしはそうだし目の前にあるのは輪だ。  正確にはトゥハーフィッチズ。二結びの輪。閉まるうえ強度が強い結び方だ。水引を縦にしたような縁起の良い、いっそ可愛らしい結びの輪。しかしこれを使い、わたしがしようとしていることは縁起がよいどころか、引き際。人生の終焉。  そう。死のうとしているのだ。  理由は紆余曲折の結果だが、一言でいってしまえば社会から転げ落ち、そこから這い上がれなかっただけのことだ。  ――生きることに疲れました。  ベタだ。ありふれすぎて笑うどころか、見向きもされない一行。  それでも精一杯やってきた。融通が利かないといわれるほど真面目さだけはあったので、とにもかくにも現状に向き合った。それは自負できる。もし、死のうとしている人がいるなら、その選択は間違っていない。老いも若きも一緒だ。死に差別も区別もない。そこに至るまで悩んだはずだし、相談しただろう。もしかして医者にかかり手助けを求めたかもしれない。だからこその結果だと思う。  もうわかっていると思うが、そうだ。誰も助けちゃくれない。  夢の国の幻が解けた。ぽんっ。ようこそ現実へ、だ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加