あなたにだって叶うこと

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 わたしはここでようやく悟ったのだ。この国は窓口と制度は作るが、連携する場所のないただの箱なのだと。どこも責任は取らない。そもそも専門家は常駐しない。いても窓口は別ルートだ。素人相談員だけが存在し、マニュアルに沿って対応する。引き継ぎの内容以外知らず、国の最新制度を把握していない。  対応はした。  その事実を作るだけなのだ。そして渡り歩くことに疲れた人は死を選ぶようになっている。実に巧妙な迷路だ。制度は島のように存在するが乗り物がない。あっても満員だ。それでも彼ら彼女らは優しい顔で、声でこう言うのだ。 「またきてください」  行ったところで、今度はこうだ。 「管轄外ですので」  君も制度に頼るときがくれば苛立ち、問題は解決しないことを知るだろう。そうなるよう作られているのだから。だから、わたしは最後に伝えたい。  限界まで耐えるな。  余力があるうちに、金があるうちに弁護士を雇い、法を矢面に立たせるのが一番だ。役所はトラブルを嫌う。対応は百八十度変わる。『知りません』『ありません』『うちは担当ではありません』を一切受けなくて済む。行政というものは点で存在し、繋がる線はない。川に流された橋を渡ることができないのと一緒だ。  これが死を選んだ、わたしのさよならの理由だ。あなたにだって手が届くこと。けれどいいじゃないか。  一度死ねばもう死ななくていいんだから。
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