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「あ…、ハイ。 私…、カクテルとか全然知らなくて…、良い年をしてお恥ずかしいんですけれど…」
「いえいえ、そんな事は…。味のお好みを仰って頂ければ お作り致しますよ」
「あ、そんな感じでも良いんですか?」
「ええ。 好きなお酒をお好きな様に楽しんで飲んで頂ければ、それが一番だと思っております。」
そんな風に言ってもらえて、仕事で張り詰めていた緊張の糸が緩んだみたいだった。
私はどうやら舌が敏感なようで刺激物が苦手だ。
ミントも炭酸も辛い物も苦い物も甘い物も苦手で、だからたまに行っていた仕事仲間との居酒屋では、ビールも酎ハイもあまり飲めず、かと言って初っ端から日本酒なんか飲んでいたら飲み過ぎてしまうから飲み物に苦労していた。
それでも梅酒が居酒屋で定番メニューになってからは、梅酒ロックで落ち着いた。
そんなわたしの好みを伝えると、ごくごくありふれたカクテルのソルティードッグを出してくれた。
居酒屋で出てくるソルティードッグは、炭酸で割られてるので普段は飲まないのだけど、正規のレシピはウォッカをグレープフルーツジュースで割ったものだそうで炭酸は入らないんだとか。
そして、グラスの縁にぐるりとスノースタイルといわれる塩が付いている。
そんな説明を聞いてから飲んでみたら、グラスの縁の塩味とグレープフルーツの酸っぱさとほんのりとした苦味、無味無臭と言われるウォッカとの相性が抜群でとても美味しかった。
このグラスの縁の塩を砂糖にするタイプのカクテルもある、とか。
私のごく初歩的な質問にも丁寧に答えてくれて、その話しの流れから次々とカクテルを作ってくれて、そのどれもが美味しくて。
私は、すっかり『Chaser』が気に入ったのだった。
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