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出逢い
そんな風にして、ここ『Chaser』に通い出して半年ほど経った頃に、琢磨と出逢った。
職場にも新入社員や出入りの業者さんなんかの若い男のコはいるけれど、彼らにとっては私は、あくまでも職場の上司や取引先であって。
彼らが私を見る目は、異性どころか同性へのソレですら無い。
自分を評価する者として見ている訳だから、どちらかと言うと敵対心に近い感情も見られる程だ。
それどこか虚ろな無気力な目を向けられる時もある。
だからこそ私も、自分を女として意識するコトもなく仕事に専念出来るのではあるが。
そんな私に琢磨は、もちろん客としてであるけれど屈託のない笑顔を向けてくれる。
いつの間にか私の周りには、そんな何の裏も無い笑顔を向けてくる人間はいなくなっていた。
「そうそう、私の名前ってさー。 イニシャルにするとNGじゃん? だからさー、よくからかわれてさー、それもあって自分の名前って好きじゃないんだよねー。」
少しお酒が回って、話し口調も砕けてくる。
「そうですか? 僕は良い名前だと思いますよ。」
「ホントー? ふふっ、ありがとー。 琢磨くん優しいね。」
「僕は本気で、良い名前だと思ってるんですよ。 菜つ姫さんて名前も可愛らしいし。」
そんなコトを必死に訴えてくる。
その素直さも、とうに忘れてしまったモノだ。
「菜つ姫さん、茶化さないで下さいね。本当にそう思ってるんですから。」
琢磨の顔がすぐ近くで私の瞳を見つめて来た。
その時、琢磨の真っ直ぐに私を見つめてくる瞳と目が合った私は、まるで心臓を掴まれたかのように胸がギュウっと苦しくなった。
エッ…、ナニ? イマノカンカク。
随分と長い間、感じたコトも無い感情に自分で戸惑ってしまった。
けれど私は、そんな自分の感情を上手にしまい込むと、それまでと変わらず琢磨との会話を再開した。
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