出逢い

5/6
前へ
/32ページ
次へ
金曜日、今日は会議があって退社時間が遅くなってしまったけれど、ロッカーでいつもより少しだけ丁寧に髪や化粧を直して、なんとなく軽い足取りで、あの『Chaser』を目指していた。 そんなに急いだつもりは無かったけれど、ドアの前でちょっと上がった息を整えてから、逸る気持ちを抑えつつドアを開ける。 「「いらっしゃいませ。」」 マスターと琢磨が声を揃えて迎えてくれる。 「菜つ姫さん。 来てくれたんですね。 また、お会い出来て嬉しいです。」 琢磨が可愛らしい笑顔でオシボリを出してくれる。 あっ、八重歯。 「こんばんは、琢磨くん。 今日はスクリュードライバーをくれる?」 「かしこまりました。」 「何か良い事でもありましたか?」 「えっ? いえ、特には…」 「そうですか? 今日は、いつにも増して笑顔が素敵ですよ。」 マスターに言われて、そんなに顔に出てるかと恥ずかしくなった。 琢磨と私じゃ釣り合う筈も無いけど、時々はこの店に来て、楽しくお喋りして美味しいお酒を飲めればそれで良い、そんな風に思っていた。 お陰で『Chaser』に来る楽しみも増えたコトだし。 これまでの私を思えば、それでも充分だ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

194人が本棚に入れています
本棚に追加