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まるでそれは悪魔の唸り声。
日中は時計の秒針の音が聞こえる位に静かなのに、夜になると何処からともなくこんな声が村全体に響き渡る。
フワフワの耳と尻尾アイテムを装備した妖艶な女狐が、若い独り身の男を悪戯に騙しにやってくる。狐だと思って嘗めてかかるとシゴき倒される。中には意識が飛んで殺されかけた奴も居る。山奥の巣穴に拉致されて、痙攣してようが、アレを出しきってようが構わず、一晩中奉仕され続け、残さず種を吸い取られてしまうらしい。そんなイカれた言い伝えがこの村にあるようだが。
一度そいつに出逢ってあんな事やこんな事や、現実の人間ではとても恥ずかしくて出来ない事をやってみたいけど、そんなの一度も見た事無い。
平成10年12月――――
遥か最北端の山岳部。
周辺に鉄道もスーパーマーケットも街灯すら無い、極寒地帯にひっそりと寂しく佇む小屋。なのに、不思議な事に窓に雨戸が付いてない。貧しいからしょうがない、が理由なのだが。
内側は結露で黒カビが混じった変な色した汚い水滴がダラダラ流れ落ちていて、外側は誤って手でも触れたら軽い火傷を負っちまうくらいに凍り付いている。そんな窓の外で吹き荒れている吹雪。
おそらく築60年以上は経っている超オンボロ家。
とうとう屋根の上に積もり過ぎた雪が、この脆い巣を壊してしまうんじゃないか? と毎年思ってしまうけれど、強い風にミシミシと音を立てながらも、なんとか何年も耐えしのんでいる。
例えるなら、いい歳越えたババアが、しぶとく貞操を守り続けている、って感じだな。
ジャ――――ッ。
テレビまでオンボロときたもんだ。
ノイズ音を挟みながら、“俺たち”の居る、この家で一番まともに暖かい囲炉裏のある部屋のテレビのブラウン管から、鉄道会社のコマーシャルが流れ出す。
ヒットしたとはいえ、またコレかよ……。
意地でも変えん! そういう位に毎年代わらないお約束のクリスマスソング。デビューしたての女優を登場させたショートドラマな演出で、様々なシチュエーションで宣伝している。
きっと遠距離恋愛なのだろう。
電車の車窓を挟み、お互いの両手を合わせちゃって。初々しいカップルが目に涙を浮かべて別れを惜しむ。今年はこんなタイプのものだった。
コマーシャルの最後に会社名のロゴと一緒に表れた言葉は――――
“ずっと一緒にいようね”
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