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 時平は正室の廉子女王(やすこひめおう)と、側室の六条の御方を前に一席ぶった。 「我が妹は皇子を産み、無事に皇子は東宮に立った。再来年には私は太政大臣に登ろう。私ももう三十五を迎えようとしている。これまでのような短い下襲の裾ではなくて、綺羅綺羅(きらきら)しい、長い裾で歩いても良いと思うのだ」 「どのような色でございましょう」  六条の御方と顔を見合わせて女王が尋ねた。 「そうだな。私は禁色を許されているが身につけたことはない。参議程度で禁色を使うのを見ると、最近までこう、真面目にしてきたのが馬鹿馬鹿しくなってきたのだ」  まあるい顔をした六条の御方が慌ててひれ伏した。 「殿、気が回りませんで大変申し訳ありません」  時平はちくりと胸が痛んだ。 「良い良い。今日ふとそのように思っただけなのだ。これまでの、季節に沿った色の使い方はそれはそれで良い。ただ、禁色も含めて構わぬ」  隣に座る北の御方は「何を考えているの」と言いたげな笑みを浮かべていた。  少し青ざめた顔で六条の御方が下がった。 「殿」  北の御方が向き直った。時平は話さないわけにはいかなかった。女王はククッと鳩のように笑った。     
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