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「六条の御方には話さないほうが良いでしょう。突拍子もないものを作られるとお困りでしょ。妹君の七条の后が出家される前に用意していた反物がいくつかそのままになっているはずです。それを使いましょうか。おそらく長さが足りないのですぐには仕上がらないでしょうが」 「后の宮の反物か。それは明らかな禁色だな!」  機嫌良さそうに左大臣は答えた。  北の御方に言わせると、左大臣は死ぬと思い込んでいる。 「咳とともに血を吐けば、私の寿命は十年持たぬと言われた。あなたにはいっておかねばならない。数日前に血を吐いた」何ヶ月か前にそう言われた。  人はいずれ死ぬのである。  しかし、すぐに死ぬ、死ぬと決めつけなくても良いではないか。  左大臣と女王は十にもならない童の頃から、親の決めた仲である。  女王にとっては二つ年下の左大臣は弟が一人増えたようなもので、深く思うような相手ではない。  それでも、友のようには思っていた。  友には昔のように楽しく笑って過ごしてほしい。  今日明日も知れぬ命ならばこそ、愉快に過ごしたいではないか。  数年前に亡くなった女王の父の八条宮は香の調合の上手い人だった。  八条宮直伝の調合の技を駆使して、女王は心を落ち着けるような香を調合して自分に使った。  そして左大臣には心が高揚するような香を。あれがようやく効いてきたかもしれない。  
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