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 二十日ばかり後のことである。  六条の御方が仕上げたのだ。 「これで、よろしいのでしょうか」  ぷるぷると震えながら、六条の御方は左大臣と北の御方に見せた。 「なんと良いものではないか」  北の御方は褒めた。  元は七条の后のために作っていた綾の青白橡(あおしろつるばみ)色の反物を下襲に仕上げた。しかも、布に張りがあるからか、艶やかで角度によっては孔雀色のようにも見える。  「裾は、北の御方に言われたように十尺にいたしました」  震える手で六条の御方は裾を広げた。 「これこそ私の求めていたものだよ」左大臣も六条の御方を褒めて手を握った。 「ただし、長さが足りないので、下襲の見えるところにだけこの生地を使っています」 「良い良い。見せつけるだけだ。見えるところだけで良い。私は誰か殿上人の前で脱ぐわけではない」  夜の間に、北の御方は下襲と束帯に香を薫きしめた。  翌朝、左大臣と共寝をしていた六条の御方が香を嗅いで、悶絶して喘ぎながら叫んだ。 「この香りが、殿から!!」  北の御方は、そんな六条の御方を素直でかわいらしい人だと思う。同時に、そういう風に思えない自分が残念だった。     
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