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 左大臣・藤原時平は、妹の女御・藤原穏子を訪れて、弘徽殿に至る道すがら、そして弘徽殿で綺羅綺羅しい姿を見せつけた。  見ながら、弘徽殿女御は「立てば芍薬、座れば牡丹」と呟いた。  確かに、兄上は美しい。  叔母の二条の廃后の若かりし頃を彷彿とさせる、いや、藤原氏出身の妃でもっとも美しいと言われた、染殿の后の全盛期にも劣らぬのではないかと生唾を飲み込んだが、慌てて頭を振って変な考えを振り払った。 「公卿が裾を引きずって歩きたいなら、この程度はなさらないと。さすがは兄上、お美しい。香もよくお似合いです」  女御が褒めて、気を良くしたのか、随身にはとりわけゆったりと先払いをさせ、左大臣はずるずるとその青白橡色の裾を引きずって清涼殿の殿上の間に入った。  殿上人はすでに揃っていた。 「いやあ、大臣(おとど)。素晴らしい下襲でございますなあ。青白橡とは思い切った色をお選びになりました」  帝の叔父の泉大将が話しかけた。 「最近皆が派手になっているので、これは一上として威厳を見せねばならぬ時ではないかと。禁色を許されて何年になろうか、これまで用いたことはないが、今こそ用いるべきであろうと思いまして」     
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