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 帝は頭を抱えていた。 「なぜじゃ、なぜどいつもこいつもあのように下襲(したがさね)(きょ)を引きずって歩く」 「束帯には色目があまりありませんからね、精一杯のおしゃれなのでありましょう」  弘徽殿女御(こきでんのにょうご)藤原穏子(ふじわらのやすらいこ)は駆け寄ってきた東宮を抱きあげながら帝に返事をした。 「女房たちの気を引きたい、若い人もおられるのでしょうよ」 「老いも若きも引きずるではないか。我が叔父の泉大将までするので見苦しい。高欄に引っ掛けているのなど、見るに耐えぬ」 「気がお若いのです」女御は帝に顔を向けもせずに答えた。 「引きずらないのは、そなたの長兄の左大臣と、四兄の弁の侍従だけではないか。左大臣は禁色(きんじき)を許されていてもそれを犯そうともしない」  女御は東宮の柔らかな頬を、ツンツンとつつきながら言った。 「無骨な四兄は長兄に従うだけですし、そもそも長兄はあまりそういうところに興味がないのです。もっぱら北の御方と六条の御方が相談して作って、本人はそれを着るだけですよ。六条の御方はとても生真面目な方ですから」     
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