6人が本棚に入れています
本棚に追加
1
帝は頭を抱えていた。
「なぜじゃ、なぜどいつもこいつもあのように下襲の裾を引きずって歩く」
「束帯には色目があまりありませんからね、精一杯のおしゃれなのでありましょう」
弘徽殿女御・藤原穏子は駆け寄ってきた東宮を抱きあげながら帝に返事をした。
「女房たちの気を引きたい、若い人もおられるのでしょうよ」
「老いも若きも引きずるではないか。我が叔父の泉大将までするので見苦しい。高欄に引っ掛けているのなど、見るに耐えぬ」
「気がお若いのです」女御は帝に顔を向けもせずに答えた。
「引きずらないのは、そなたの長兄の左大臣と、四兄の弁の侍従だけではないか。左大臣は禁色を許されていてもそれを犯そうともしない」
女御は東宮の柔らかな頬を、ツンツンとつつきながら言った。
「無骨な四兄は長兄に従うだけですし、そもそも長兄はあまりそういうところに興味がないのです。もっぱら北の御方と六条の御方が相談して作って、本人はそれを着るだけですよ。六条の御方はとても生真面目な方ですから」
最初のコメントを投稿しよう!