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その時、俺の唇は柔らかい物に触れた。
すると不思議な事に、全身からみるみる疲労感が消えていった。
「青りんご……お前」
「ちょっとだけ、返したよ。飄太君から、貰った元気……」
掠れた声でそう言った青りんごの顔は、明らかにやつれていた。
「ちょっとって……元の青りんごに戻ってんじゃねえか!」
「いいの。飄太君が、元気になれば」
「よかねえ!」
今度は俺から青りんごにキスをする。すると風船に空気が注入されたように、痩せこけた頬は少し元に戻った。
「こ、これで平等だろ」
「ぁ、ぅ、ん」
何故生命エネルギーが口移しされたのか理解できなかったが、今はどうでもよかった。
「おい凛子。俺また、生き甲斐を見つけたぞ。お前を生涯守るって生き甲斐だ」
「……ありがとう。私も、飄太君と一緒に生きるって、生き甲斐見つけた……」
それから俺と凛子は、体を寄せ合い北東の空に輝くカシオペア座を眺め続けた。悪魔が盗み見てるとも知らずに。
「おやおや。お二人ともすっかり赤く熟れちゃいましたね。お互い、その実を食べさせ合いながらせいぜい長生きして下さいな」
おしまい
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