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1 最初の恋が、別れ
二十三歳の青年であるレーベは針葉樹の植えられた心寒くなるような林の中で、アルマの名前を呼んだ。返事は返ってこなかった。
「アルマ!」
アルマはどこに消えたのか。
帰ってしまったのか。
レーベは自分を不甲斐なく思った。アルマひとり引き止められない自分を。
仕方なく、飲み物でも、と思うが、この針葉樹の並木道に自動販売機などない。しばらく歩かなければ。
アルマのことは忘れて、自動販売機まで歩くことにした。
一キロほど歩いたところに、自動販売機があった。そこにはつまらない、ありふれたサイダーのようなものがあり、それは一リントだった。
喉の奥に流し込むサイダーのような飲み物。まずい。甘い飲み物を飲み続ければだんだん脂肪が増えてくるものだ。実際、レーベの腹はだぶついてきていた。
アルマはどこへ行ったのか。
木々の間に消えたのか。
レーベは途方もない寂しさを感じる。
しかし、やがて木々の奥にアルマの姿を発見するのである。
「何をしていたの、アルマ」
レーベは言った。
アルマはまっすぐレーベを見つめている。
「私も、どうしていいかわからなくなったの。青春は前が見えない。どう生きていいのかわからない。私たちはこの先、もしかしたら永遠に別れるのかもしれない」
「そんなこと言わないで」
アルマは林から出てきた。僕はその白い手のひらに触ることはしなかった。大事なその手に触れることはしないで、ずっと大切にしていたかった。しかし――
「レーベ、あなたは私の最初の恋人になってくれるんでしょう」
アルマは言った。
「アルマは素敵だ。だから、何としてでも僕のものにしたいと思う。でも、そんな自身も独占欲も、いつか運命に打ち砕かれてしまうような気がしてならない」
レーベは力なくそう答えた。
「運命は絶対なのかな」
「運命に何が関与しているかがわからない。例えば、僕の人間嫌いとか、怠惰が、二人が引き裂かれる運命に導いているかもしれないけれど、人生にマニュアルはないんだ」
「じゃあ何で私たちは引き裂かれるのよ!」
「わからない」
「何でもいいからキスしてよ!」
レーベは磁石に引かれたように後ろへと引っ張られ、キスをしようとした勢いは消えてしまった。
運命がレーベとアルマを引き裂く理由が二人には呑み込めないのだった。
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