第一章 小屋

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「うぅーん。とりあえず、一段落ね」  両手を上げ身体を伸ばすと、マリーは器用にゴミを避けて歩き、コーヒー豆が入っている箱の前へ来る。 「朝はいつも少し冷めたブラックでキメるけど、今日は成功へ進んだから。ちょと奮発して、アツアツの砂糖多めのにしよっと」  気分が高揚しているマリーは素早く蓋を開けると呪文を唱えた。すると、箱からコーヒー豆が浮遊した。  掌に乗る程度の量の豆は、突如出現した小さなつむじ風によって、粉上になるまで切り刻まれる。 「そして、次は水と火だ」  マリーはまた違う種類の魔法を使った。マリーの横に小さな火の球と水の球が出現する。そして二つの球がぶつかり、一つの魔法球になった。 「うん、上出来」  コーヒーの粉と出来立てのお湯の球を混ぜ合わせる。 「確か、あっちにまだ使ってないマグがあったはず」  マリーは出来たてのコーヒーを予備のマグに入れる。 「うんうん、我ながら上出来。いい香りだわ」  鼻歌を歌いながら、魔法でコーヒーを淹れる。これがマリーの日常の始まりだ。 「あ、そういえば扉が外れたままだったわ」  コーヒーを飲み終えたマリーは明け方の実験で、小屋の扉が吹き飛んだまま立った事を思い出した。  呪文を唱え、外れた扉を元の位置に戻す。  あくまで戻すだけで、いくら魔法といえど、触媒もなしに破損した箇所や傷は直せない。  それと同じで原型から壊れてしまったモノや死者も戻せない。 「あ、しまった。罠の術式を施しておかないと」  実験をするため、魔法を解除していた事をマリーは思い出した。ドアに触れ、呪文を唱える。 「たまーに忘れる事があるからね。気をつけないと」  マリーはいつも設置している罠魔法を再び施した。見た目は通常の扉と変わらないが、マリーは扉にあらゆる魔法をかけていた。  力時間の大人が数時間、殴ったり蹴ったりしても壊れない強化魔法。  火や爆発などの魔法を使って扉を開けようとした場合の耐性魔法。  鍵を強引に開けようした時になる大きな音が鳴る罠魔法。  三重の魔法を施し、マリーは家に引きこもっていた。  扉ではなく、小屋全体を壊せるほどの大魔法を放たれた時は、そうなる前に気づくため、マリーは扉だけに罠魔法を設置していた。
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