第一章 小屋

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 無意識にマリーは自らの胸に手をあてるが、ミアと異なり凹凸はほぼない。その事実が余計にマリーを落ち込ませた。 「それじゃあ早速……」  ミアは薄緑色の宝石が付いた髪留めを外すと汚い机の上に置く。少し乱れた艶のある黒髪を整え、女性はマリーの方へ手を伸ばして来た。  何かを求める物欲しそうな目、白くきめ細かやかな肌、程よく引き締まった手が伸びてくる。  熱い吐息を零す柔らかそうな唇がマリーのすぐ傍まで近づく。 「ちょちょちょっと、待ちなさい、ア、アタシにそんな趣味は!」  マリーは目を瞑ってしまった。同姓の自分から見ても綺麗な身体を凝視するのは悪いと思った。 「これ、捨てていいの?」 「え?」  マリーが目を開けると、薄着になった女性は大きなゴミ袋を軽々と持ち上げていた。 「もしかして、そっちの薄汚れた麻袋の方が廃棄物だった?」  部屋の隅を指差される。その先にあるの袋を見て、マリーは何が入っているのかを思い出した。  実験に失敗した薬物やゴミ、何ヶ月かぶりに気まぐれで作ってみようと思った料理の失敗品。腐りかけた魚や野菜など、その中身は自らの生活力の無さを自白してしまう。 「あー見えて、アレ、実はその、小物入れなの」  すぐにバレる嘘で押し通そうと思ったが無理な話である。 「とにかく、出ていってー!」  絶叫と共にマリーは呪文を唱えた。強風が発生し、眼鏡の女性と持ち物を優しく外へ追い出す。上着と髪飾りが草原の上に落ちた。 「そっか。突然来たから、見られたくない物があったのね」 そういうと女性は脱いだ上着を羽織り、部屋の掃除が終わるまで大人しく外で待つ事にした。
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