慟哭

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「っ……ぐっ!」  うめき声を発し、倒れた時東へと馬乗りになると喉元へと手を翳した。 (ダメだ……!)  蒼生は絞め殺したい衝動を抑えた。時東のネクタイを素早く解いて、手首へと巻き付けた。そして自分のベルトを引っこ抜き、次は膝を結束した。これで時東の動きは完全に封じることが出来た。 「くそぉ……このガキ……!」 「……お前だけは逃がすわけにはいかないんだよ、時東! お前だけは絶対に!」  憎き男の胸倉を掴み大きく揺さ振って、怒りのまま叫んだ。 「ははっ……はははははっ! 俺を牢屋にぶち込んでも、晶子のことなんて何も証拠は残ってない! 金さえ払えば俺はすぐにでも娑婆に戻って来るんだ! 無駄なんだよ!」 「証拠? それならこの時計にある。さっきの証言は全てここに録音されている。残念だったな」 「なに……?」  時東の顔がみるみる強張った。蒼生は勝ち誇った笑みを浮かべた。 「これが世間に流れたら、いくら金があってもお前の人生は終わったのも同然だろ。今の時代はSNSで一気に拡散する。メディアも厳しい。厳罰を望み、真実を追求する声だって上がる……お前に逃げ道なんてないんだよ!」  振り上げた拳を床へと叩きつけた。十六年分の怒りと憎しみを、この拳に全てぶつけた。力加減など出来なかった。指の関節から痛みが駆け、血が滲む。だが、その痛みすらも長い年月に比べれば大した事などなかった。 「この、クソガキめ……とっとと殺しておけばよかった……退けっ‼」 「っ……!」  胴体を跨ぐ蒼生を振り落とそうと時東は我武者羅に暴れると……。 「彪児! お前、何をボサッとしてやがる! とっとと助けろ、このクズが!」  倒れたままでいる成瀬に向かって罵声を浴びせた。
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