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「大丈夫。どうしても彼と話がしたいの。心配しないで……」
我が子の気持ちを感じ取ったのだろう。晶子は不安げな表情でいる蒼生に優しい口調で諭した。
「う、うん、わかった……」
コクリと頷いて塾の教材が入ったカバンを手に助手席から降りた。続いて母もエンジンを切って車外へと出た。
家に入るには門扉の近くを通る必要がある。男の前を横切らなければならない。
(やだな……)
恐怖に似た不安を我慢して玄関ポーチへと走った。そんな蒼生を見送ってから、晶子は男へと歩み寄る。その時だった。空から地鳴りのような雷鳴が轟いた。空間が閃光に包まれる。
「うわっ!」
あまりに大きな音の雷に蒼生は悲鳴をあげて肩を竦めた。怖い。振り返り、母へ視線を送ると一陣の風が吹きつけた。母の濡れた髪が舞い上がり、男が被るフードも微かに揺らめいた。
「……っ!」
鼓動が強く打った。ほんの一瞬、フードから覗いた男の横顔は笑っていた。口角を不気味に上げながら。何より印象的だったのは……。
(あれは……傷?)
それとも痣だろうか。蟀谷あたりがほんの少し色素沈着している。もう一度、男の顔を確かめようとしたが、もとの位置に戻ったフードがそれを邪魔をする。蒼生はそのまま男を凝視した。視線に気付いたのだろう。男が首を傾げた。
(今、こっち見た……?)
嫌な心音が鳴った。危険信号が脳内で点滅した。この男は駄目だと、子供ながらに直感した。
「っ……お母さん、酷い雨だし家に入ろうよ! その人には帰ってもらおうよ!」
言わずにはいられなかった。しかし母は頷かない。
「この人ね、お母さんのお友達で困っているみたいなの。だから家に入って待っていて……いいわね?」
珍しく強い口調に従うしかなかった。蒼生は鍵穴へとキーを差し込んだ。
「……っ!」
扉を開いた途端、背中から突き刺さる視線に震えた。勢いをもって振り返ると、男と目が合った気がした。それだけで鳥肌が立った。
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