過去

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(お母さんの友達って……本当に?)  疑いを持ちながら扉を閉めた。しかし搔き消した。母な困っている友人を助けたいと言っていた。それを信じないわけではない。漠然とした不安に十一歳の蒼生は戸惑うしかなかった。 「そうだ、お父さん……!」  父に連絡を入れてみよう。声を聞いたら安心する。この不安も吹き飛ぶだろう。蒼生は運動靴を脱ぎリビングの電話台へと急いだ。受話器を手にして父の携帯番号を登録した短縮ボタンを押す。  多忙な父が電話に出るのは少ない。あとから折り返してくることが殆どだ。もし父が出たら、母が今、知らない男と家の目にいることを告げよう。土砂降りのなか、やってきた男に違和感を覚えたことも伝えよう。 (お願い……出て)  頭の中で整理しながら、耳に響くコール音が早く父の声に変わることを願った。  しかし、願いは虚しく、留守番電話サービスへと繋がった。伝言を入れるべきか悩んでいた時だ。ふと思った。母の様子を確認しようと。蒼生は受話器を降ろして門扉が見える窓際へと移動した。閉じられたカーテンにそっと手をかける。しかし、玄関先に母の姿はなかった。男もいない。 (お母さん……?)  もしかして二人で出かけたのだろうか。
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