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「なあ、俺のどこが格好いいって?」
フッとかかった吐息が前髪を揺らしてくる。
「……っ⁉」
近い距離に彼の顔があると知った。蒼生はあえて見ないように顎をグッと引いた。
「なあ、教えてくれよ」
「っ……ん」
次は耳元で囁かれて声が漏れた。背筋に甘い電流が走って、反射的に顔を上げると輝く青がすぐ目の前にあった。
(あ……)
しまった。見てしまった。心音が大きく打った。
「耳も弱いの?」
「き、君は何がしたいんだ……っ」
弄ぶ物言いに気が立った。青の瞳で乱されていく心。それを隠しても微かに震える声色と早鐘を打つ心臓が本来の柳蒼生を崩してくる。葛城はそれを見透かして揶揄っているに違いない。そう思えてならなかった。
「何がしたい? そうだな……可愛い蒼生ちゃんを困らせたいってとこかな。だって面白いし」
「君って人は……!」
睨みを利かせた時だった。
「よお、青也じゃん」
突然、男の声がした。
「成瀬さん……!」
現れた男に葛城は笑顔を向けると、蒼生を囲んでいた手を壁から離した。
(成瀬……?)
白のブランドTシャツにグレーのダメージジーンズを着用した男に蒼生は注目した。葛城に劣らぬ長身だった。黒い短髪は清潔に整えられ、彫りの深い顔をしたこの男には見覚えがあった。
(彼は確か、葛城と一緒の映画に出ていた……)
有名俳優の成瀬彪児だ。脇役の葛城と違い主演を果たした男で、現在三十歳。所属事務所は、芸能界大手のグローバルプロモーションだ。業界でもトップクラスの勢力で、アイドルやミュージシャン、タレントなど、多くの芸能人が所属している。その中でも成瀬は事務所の看板を背負う俳優で、実力ともに人気の高い人物だ。
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