不穏

8/12
前へ
/377ページ
次へ
「……成瀬さんと仲がいいのですか?」  なんでもない素振りで質問した。 「どうしてそんな事を聞くんだよ」  警戒心が伝わったのか吐き捨てるように返された。妙なところで敏感だ。それでも蒼生は気にせずに続けた。 「いいから答えて下さい。警護に関わります」 「仲いいよ。俺の先輩で、尊敬してる」 「所属事務所も違うのに『先輩』……ですか?」 「成瀬さんとはデビュー当時、モデル養成所が一緒だったんだよ。そこで知り合った」 「そうですか……わかりました」  含みを込めて頷いた。蒼生の中で成瀬も調査対象だと位置付けられた。    成瀬が怪しいのかと問われれば完全には肯定出来ない。しかし、勘が騒いでいた。母の事件以降、蒼生は違和感を無視せずに生きてきた。百パーセント、その勘が正しいのかと言われれば頷けないが、用心さは前もって危険を回避することが出来る。  今回、葛城を取り巻く人間関係も徹底して調べるつもりでいた。現状で言えば、成瀬はその内のひとりという段階だ。 「もしかして成瀬さんを疑ってるのか? やめろよ。あの人は、そんなのじゃない」  考えを見抜いてきたのか、葛城が語気を強めた。 「僕の仕事は警護対象者の身辺や人間関係にも目を光らせる必要がある。悪いがその辺は、こっちの判断で動かせてもらう」  断固とした態度を示した。 「……勝手にしろ」  言葉でこそ、そう言ったが納得がいかないのだろう。葛城は鋭い口調で唾棄すると、蒼生を置き去りにしてスタジオへと足を進めた。 「――青也! もっと挑戦的な顔してみろ。お前の本気はそんなもんじゃないだろ? オーケーいいね。最高に格好いいよ!」  中年男性のカメラマンが煽りを入れながらシャッターを切る。今日の撮影を取り仕切る人物だ。数多くの芸能人の写真を手掛ける有名カメラマンだそうだ。    撮影は滞りなく進んでいった。葛城がポーズを決める度、次々とカメラのデジタル音が鳴りフラッシュが走る。背景を飾る照明もバリエーションを変えていった。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12268人が本棚に入れています
本棚に追加