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「次は好きにジャンプしてみてくれ。目線は任せる」
「りょーかい」
指示に頷いた葛城が軽やかな動きで身を翻し床を蹴った。宙を浮いた一瞬、彼は笑みを浮かべながらカメラへと流し目を送った。ジャケットが舞い、光る金髪がサラサラとなびく。まるでアートだ。蒼生を含め、スタッフ全員が葛城の姿に釘付けとなった。
「今のめちゃくちゃいいのが撮れた。あとは青也の好きにしろ」
大満足といった様子でカメラマンがレンズを覗く。ここからは秒刻みだった。葛城は長い手足を駆使しながら様々ポーズをとった。少しの隙もない、流れるような動作。さすがプロのモデルだ。蒼生はスタジオの隅で佇みながら葛城を見つめた。
圧倒的な存在感とカリスマ性、実力。そんな彼を彩るのは……。
(本当に、綺麗な青だ……)
カメラのレンズを射貫く青い瞳だ。
この色だと蒼生は思い出す。葛城青也という男が心に焼き付いた日。駅の広告看板で足を止めた日の事を。周囲の雑音が耳に入らないくらい魅入っていた。理由はわからないけれど、画面の中の彼から目が離せなかった。
(違う……変な意味は無い)
特別な想いはない。燻る感情に蓋をして、照明ライトが並ぶ天井を何気なく見上げると、微かな動きを両眼が捉えた。
「……?」
目を凝らす。中心部分に設置された一番大きなライトが少し揺れている気がした。固定が安定していないのだろうか。真下には葛城がいた。今すぐ落下はしないにしても、安全確保の必要がある。蒼生はスタッフに知らせようと一歩踏み出したが、同じタイミングでバチンと何かが切れる音が響いた。
「……っ⁉」
直後、真っ暗闇が訪れた。全ての電気がシャットダウンしたのだ。女性スタッフの怯えた声や、戸惑った声が飛び交う。スタジオ内がざわつきはじめた。
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