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停電、もしくはブレーカーが落ちたのだろう。ここでスタンド式照明の非常用バッテリーが作動する。ぼんやりとした光が空間を包むが灯りとしてはまだ不十分だ。とてもじゃないが撮影は続けられそうにない。
「おーい、誰かブレーカー見てきてくれ!」
男性スタッフが呼びかける。
(とにかく葛城さんの傍に……)
行かなければ。この状況で何かあれば危険だと、彼のもとへ一歩踏み出した時だった。ギギッと、きしめくような金属製の音が頭上から響いた。
「――っ!?」
慌てて天井へと視線を飛ばすと、ライトが傾き大きく揺れていた。支えを失った鉄塊が激しい音を鳴らしながら葛城を目掛けて落下していく。彼も気が付いたのか、ハッとした表情で真上を見た。その全ての動きがスローに見えた瞬間……。
「っ……クソっ!」
蒼生は駆け出した。
走るスピードの感覚を研ぎ澄ます。距離にして約十メートル。いけると、ジャンプする勢いで葛城に飛びかかった。直撃を免れるためには全体重をかけて彼を押し倒すしか方法がなかった。
「……っ‼」
ドンッと強い力で体がぶつかり合う。二人は床に倒れながら滑っていった。そのわずか一瞬後、派手な音を轟かせてライトは床に叩き付けられた。鉄同士がぶつかる音が空間に反響する。落下音に合わせてスタジオ全体が眩い光に包まれた。ブレーカーが戻ったようだ。
「痛ってぇ……」
横向きに倒れたまま葛城が呻く。
「葛城さん、大丈夫ですか⁉」
慌てて上体を起こして無事を確認した。
「ああ、何とか……」
「……よかった」
ホッと胸を撫で下ろしたところで相澤が駆け寄ってきた。
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
スタッフ全員も二人を取り囲むようにして集まった。
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