不穏

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「大丈夫です」  頷いて散らばるライトの残骸を確認した。ランプ部分は粉々に砕け散り、グローブも大きく破損していた。床も傷ついている。もしこれが葛城に直撃していたら、大怪我に繋がっていたに違いない。 「……なんでライトが落ちてくるんだよ」  葛城も身を起こす。険しい目つきをしていた。そこには恐怖より怒りの感情が宿っていた。 「柳さん、これって……もしかして」  相澤が不安気に尋ねる。彼女の声は震えていた。故意的な行為だと感じているのだろう。蒼生も同じだった。葛城を狙った犯行だと、ほぼ断定して彼女に目配せした。 「おい、トップライトが落ちるとか有り得ねぇだろ! 撮影前に確認しとけ!」  カメラマンの怒号が飛ぶ。何も事情を知らない人からすれば、これは設備不良事故だ。スタッフたちがどよめく中、蒼生は冷静に周囲を警戒する。 (スタジオの中に犯人が……いる?)  そんな強い可能性に緊張が駆けた。ブレーカーが落ちてからの事を頭の中で再生する。照明がシャットダウンしたタイミングがよすぎる。まるで計算し尽くされているようだった。 (まずいな……かなり過激だ)  危害行為が直接的すぎる。犯人の気性の荒さと攻撃的な一面を肌で感じた。 「とにかく撮影は一旦中止だ。落ち着き次第再開するから早く片付けろ!」  カメラマンの男がスタッフ達を動かした。 「お二人とも、お怪我は?」  相澤が蒼褪めた顔で二人を交互に見た。 「俺は全然大丈夫。それより、あんたは?」  ゆっくりと立ち上がった葛城が蒼生へと手を伸ばした。 「僕もだいじょう……っ!」  左手首から鋭い痛みに顔を顰めた。どうやら倒れた時に捻ってしまったようだ。
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