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「どこか怪我したのか?」
異変に気付いた葛城が腰を折ってしゃがむ。探るように顔を覗かれた。
「いえ、大丈夫です」
視線を逃がしてなんでもない振りを務めた。
「嘘言うな。大丈夫じゃないだろ」
「っ……」
心配を露わにした声色で、簡単に見抜かれてしまった。
「相澤さん、槇田さんに今のこと連絡いれといて」
葛城の指示に相澤は頷くと、スマートフォンを取り出した。
「……とりあえず控室に行こう」
蒼生の全身を包み込むようにして葛城が密着する。
「か、葛城さん……あっ!」
何と問う前に視界が大きく揺れる。突然の浮遊感が蒼生を襲った。
「あんた、細いな」
体は葛城の腕によって横抱きに抱き上げられていた。
「なっ、何をしてっ……!」
「でも、筋肉はちゃんとついてる感じだな。まあ、体力勝負の仕事だもんな」
「お、降ろしてくれ、自分で歩ける! 大した怪我じゃないから……!」
成人の男を軽々と持ち上げるなんて信じられない。抵抗する蒼生など構わずに、葛城はスタジオを出て控室へと続く通路をどんどん進んだ。
「責任取りたいから、俺に手当させて」
怪我を負わせたのは、まるで自分の所為だと責めているようにも聞こえた。それは違う。蒼生は声を大にした。
「責任って、僕が君を護るのは当然の事で……っ、んぅ……ッ!」
声は止まった。葛城から重ねられた唇によって。
(な……なに?)
どうして口付けられたのか。理解が追い付かないまま、視界いっぱいに映る葛城の顔を呆然と見つめた。唇は数秒間、食い込むようにして深まった。
「……警護とか何だとか聞こえたらまずいだろ?」
唇を解くのと同時に葛城は小さく囁いた。スタジオ内に潜んでいるかもしれない犯人を警戒しているようだ。
「……っ」
抱き上げられたまま蒼生も神経を尖らせた。葛城が再び歩き出す。
(ああ……そういう意味か)
口づけたのは自分たちの会話が聞かれないようにするためだ。咄嗟の判断であって深い理由は無い。それでも……。
(胸が……煩い)
心臓が暴れる勢いで騒いでいる。この鼓動だけは絶対に知られたくない。蒼生は平静を保ちながら、微かに震える唇を噛み締めた。
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