正体

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 ライト落下により中断した撮影は三十分後に再開された。隣のスタジオへと場所を変えて行ったが、機材の移動時間などが響き、タイムスケジュールは大幅にずれ込んだ。結果、予定時刻より一時間以上オーバーしての終了となった。  午後六時半。黒のミニバン車が街の光が華やぐ大通りを走る。  ハンドルを握るのは相澤だ。手首を負傷した蒼生を気遣って、彼女から運転を申し出たのだ。助手席側の後部座席に蒼生、その隣に葛城が座っていた。    帰宅ラッシュが重なる時間帯。道は混雑していた。相澤は渋滞を回避するため抜け道へと入った。このまま行けば、葛城の住むマンションまで十分あれば到着するだろう。 (僕は何をしているんだ……)  車中の後部座席。隣には葛城が座っていた。蒼生は強い自己嫌悪に陥りながらテープが巻かれた左手首を撫でた。葛城が控室で手当てしてくれたのだ。警護対象者の手を煩わせてしまった。申し訳なさを通り越して情けない。蒼生の気持ちは下がるばかりだ。 (それにしても、ライトにいつ仕掛けをしたのだろう……)  重要なところだ。反省は後でたっぷりすればいい。蒼生は犯人像を探った。  前もってライトを小細工していた事は確かだが、上手くやったのか仕掛けの痕跡は残っていなかった。結果、設備不良として処理され、スタジオ関係者からの謝罪があった。真相に辿り着くまでは下手に騒ぎ立てない。今は犯人を刺激しないことがベストだと判断した上で、葛城も表向きは謝罪を受け入れた。 (……誰がやった?)  スタジオに出入りできる人間は多い。スタッフや清掃業者、営業関係者など特定は難しい。しかも頼みの綱である防犯カメラは緊急メンテナンスの為、作動していなかった。犯人はそれも把握していたのか。落ちたブレーカーもそうだ。完全に狙っている。偶然では片付けられない事柄ばかりだ。 (もしかして成瀬……?)  あの男もスタジオにいた。しかし証拠がない。結局、収穫なしだ。
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