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(情けないな、僕は……)
自らを責めた。身を挺して葛城を護れたのはよかったが怪我をしては元も子もない。このまま彼の警護を続ける資格はあるのだろうか。そんな迷いすら生じ、隣に座る葛城を横目で盗み見た。
仄暗い車内で彼は長い脚を組みながらスマートフォンを操作していた。整った顔が液晶ライトに照らされている。目線は自然と形のいい唇へと吸い寄せられていった。
(……この唇が)
重なったのだ。
交わした口づけが鮮明に甦って、鼓動が早鐘を打った。唇を食む勢いの口付けは生々しく、官能すら呼んだ。
(ダメだって……)
もう思い出すな。唇の残る感触を誤魔化すようにして右手の甲で口許を隠した。
「何、考えてんの?」
「えっ?」
突然の問いかけに口を覆っていた手を降ろした。
「だから、何を考えてんの? もしかして警護降りようとか考えてる?」
「……いや、その」
迷いを見透かされて、つい言葉が濁った。
「俺を護るのは、あんたしかいない。そうだろ?」
「……っ」
視線が交じり合う。見つめてくる青の瞳は差し込む夜光によって煌めいていた。
「あんたが言ったんだ。全力を尽くすって、それが自分の仕事だって。だったら護り抜いてくれよ」
まるで蒼生の信念やプライドを試す物言いだ。揺さ振られ、逃げ引いていた心が反応した。
「そうです……そう決めました。でも……」
「でも?」
「今日の僕は、判断が遅れただけじゃなく怪我をした。君を不安にさせた……」
口にした途端、悔しさが込み上げた。警護人失格のレッテルを貼られてもしょうがない。俯いたところで嘆息交じりの小さな笑いが聞こえた。
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