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「真面目すぎるって。結果的に俺は無事だった。だから問題無い」
「違うんだ……」
そうじゃない。自分で自分が許せないのだ。蒼生は伏せていた顔を上げた。
「俺の警護はあんたしか無理だし……それに……」
そこまで言って葛城の言葉は止まった。真摯な眼差しには訴えかけるものがあった。
「……?」
何を言おうとしているのか。答えを待つ間に車が停車する。マンション前のロータリーに到着したようだ。
「葛城さん、お疲れ様でした」
相澤がサイドブレーキを足で踏みハザードを押した。葛城は彼女に向かって後部座席のスライドドアを開けるように手でジェスチャーした。扉がゆっくりと開く。秋の夜風が車内に吹き込んだ。
まず蒼生が周辺を窺いながら降りる。目の前には地上五十階建ての高層タワーマンションが聳え立っていた。葛城はこの高級マンションの三十階部分に部屋を借りている。
辺りを見渡した後、問題なしとの合図を送ると、葛城がサングラスをかけて降りてきた。今から彼の部屋の前まで送り届けて今日の警護は終了となる。車に戻ってくるまでの間、蒼生はいつもの通り相澤へと待機を願った。しかし――。
「相澤さん、もう帰っていいよ」
葛城が言った。
「でも、柳さんが……」
「蒼生ちゃんには俺の部屋に上がってもらうから。約束してたんだよ。なっ?」
「え……?」
そんな約束は交わしていない。蒼生は瞳を瞬いた。
「そうでしたか。わかりました」
相澤は何も疑わずに笑顔で頷いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい……僕は何も聞いてない」
覚えのない約束だと驚き目を送ったが、葛城は聞かぬ振りでエントランスへと向かう。
「葛城さん⁉」
慌てて追い掛けると、背後から相澤が運転する車が走り去る音がした。
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