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「葛城さん、待ってください!」
追いつくとともに問う。
「一度、あんたとゆっくり話したいと思ってさ。今夜は付き合ってよ」
口端を上げた葛城がオートロックを解除する。木目調デザインの自動ドアが静かに開いた。
「ゆっくりって……」
「いいからついてきて」
「っ、ちょっと……!」
逃がさないと言わんばかりに葛城の片腕が蒼生の肩に回った。そのまま連行されるようにしてエレベータホールに到着する。
「僕は行かない。部屋の前まで君を送ってから帰るから……それに部屋には……っ」
その先の言葉は喉で痞えた。
(部屋には……)
恋人、ミユキがいるはずだ。会いたくなかった。蒼生の心には説明しようもない感情が生まれた。
「部屋がなに?」
エレベーターボタンを押した葛城が首を傾げる
「だって、その……君は恋人と一緒に住んでいるんだろ? お邪魔するのは悪いよ」
遠慮を覗かせて断る方向に話を持っていく。
「……恋人?」
葛城の片眉がピクリと跳ね上がった。
「控室でヘアメイクの女性と話してたじゃないか……ミユキさん、だろ?」
「ミユキ……って、ミユキ? はははっ!」
「な、何を笑って……!」
笑う意味がわからない。変なことはひとつも言っていないはずだ。
「そんなにミユキに会いたい? なら会ってやってくれよ。とびきり可愛いし、俺の大切な存在」
「でも……」
どんな顔をして会えばいいのかわからない。蒼生は困惑を露わにする。しかし葛城は引かない。
「あいつさ、少し人見知りだけど仲良くしてやってくれよ」
ミユキの存在を改めて強調された。
「……警護として同行するけど、すぐに帰らせてもらうからな」
観念するしかなかった。これも仕事だ。蒼生は肩を抱かれたまま到着したエレベーターに乗り込んだ。
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