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「どうぞ、入って」
「……おじゃま、します」
促されて広い玄関スペースへと足を踏み入れると、人感センサーが反応し、オレンジ色のダウンライトが空間を照らした。壁紙は白で統一され、床には黒の大理石が敷き詰められていた。
「ほら、突っ立ってないで上がれよ」
葛城がサッとサングラスを外す。何気ない動作も格好良い。この男を夢中にさせ、心を射とめた女性は一体どんな人物なのか。
(会いたくないな……)
ミユキとの対面をどう迎えるべきか、蒼生は憂鬱な気分で革靴を脱いだ。
「ミユキー、帰ったぞー」
葛城が名前を呼びながらリビングへと繋がる扉を開く。蒼生も後に続いた。
まず目に飛び込んできたのは大きな一枚窓の向こうに広がる大都会の夜景だった。光彩に包まれた街並みや首都高、東京のシンボルでもある巨大タワーも臨む事ができた。次に室内へと視線を巡らせる。
三十畳ほどだろうか。床も壁紙も白一色で広く感じた。窓際には黒の皮張りソファがあった。壁掛けに設置された最新式テレビも無駄に大きい。
扉から入って左側前方には四人掛けのダイニングテーブルとアイランド式のキッチンスペースがあった。リビングの様子を見ながら家事をこなす事が出来る流行りのデザインだ。ミユキはここで葛城の為に料理を拵えているのだろうか。蒼生はまだ見ぬ彼女の動きを勝手に想像した。
「なかなかいい部屋だろ? それにしても、あいつ何処に行ったんだ?」
ミユキを探す葛城がリビングで区切られたスクリーンウォールの先へと向かう。
「なんだ、ここにいたのかよ」
「……っ」
留守だったら有難いと思ったが期待は外れた。
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