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「実は僕、猫が大好きなんだ」
いつまでも触っていたい。指先を耳の付け根や首元まで移動させると、ミユキは嬉しそうに喉を鳴らしながら身を乗り出した。抱っこをねだっているようだ。
「ミユキが俺以外に懐くとか珍しいな」
「あの、抱っこしてもいいかな?」
「いいよ……ほら」
子猫が腕の中へとやってきた。ミユキは蒼生のジャケットの匂いをクンクンと嗅ぎ、鼻をヒクヒクさせた後、頭を擦りつけてきた。甘えているようだ。
「なんて小さいんだろう。僕、猫でも子猫の可愛さは別格だと思っているんだ。はじめましてミユキちゃん。蒼生です」
コミュニケーションを取ろうと話かけた。
「ぶは……っ!」
急に葛城が大きく噴き出した。
「……どうして笑うんだよ」
おかしなことはしていない。蒼生は怪訝な顔で問う。
「いや、可愛いって思ってさ。猫に自己紹介とか面白すぎだって。ははっ!」
とうとう腹を抱えて笑われてしまった。しかも涙目となっている。
「べ、別にいいじゃないか! それよりっ……僕が可愛いとか、そっちの方がおかしいじゃないか!」
「あー面白い。やっぱあんた、いいよ」
「なにがいいんだよ。猫に話し掛けるのがそんなに変な事なのか?」
ムッとして言い返しても葛城はまだ笑っていた。
「まさか猫好きとはな。飼ったりしないの?」
「今、住んでいるアパートはペット禁止なんだ。昔、母方の祖父母の家に一匹だけ飼っていたけど……僕が小学三年の頃に亡くなったんだ」
ミユキを撫でながら雄のキジトラ猫、小太郎へと思いを馳せた。
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