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(……どうしよう)
緊張が駆けた。笑って挨拶出来るだろうか。いや、するしかない。気を取り直して背筋を正した時だ。小さくて細い鳴き声が耳に届いた。
(……え?)
この声はあの動物以外にない。正面に視線を戻した。
「ね、こ……?」
ポカンとする。目の前にやってきた葛城の腕には真っ白な子猫がいた。
「こいつがミユキだよ。めちゃくちゃ可愛いだろ?」
「ミユキって……ね、猫だったのか!?」
予想外だ。彼女と想像していた正体がまさかの猫だったのだ。
「そうだよ。何だと思ってたんだよ」
勘違いをわかってか、葛城は意地悪そうな笑みで追及してくる。
「な、何って……」
それ以上何も言えなくなり口を噤んだ。
(嘘だろ……猫だったなんて……)
ここに来るまでの葛藤や、渦巻いた感情に苛まれていたのは何だったのか。蒼生は白の子猫を凝視した。
この大きさだと生後四カ月ぐらいだろう。ミユキは葛城に大人しく抱っこされながら、真ん丸な瞳を蒼生へと向けていた。そこで気付いた。
「……この子、オッドアイなんだ」
子猫の瞳は左右違う色をしていた。左目が金色、そして右目の色が……。
(葛城と同じ青だ……)
輝きのある青だった。
「綺麗だろ?」
「うん、とても綺麗だ。君の瞳の色みたいに……」
顔を綻ばせた蒼生は手を伸ばしてミユキの頭を優しく撫でた。まだ産毛が残る体毛はとても柔らかかった。
「だからさ、そういうのが反則なんだって……」
「えっ?」
ジッと葛城を見つめ返す。しかし彼は何でもないと言って瞳を逸らした。
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