オレンジ畑のピンボール

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 オレの故郷の島にはたくさんのオレンジの木がある。そのほとんどはどこかの農園の木で、背が低いままだ。だが、丘を登ってゆくと一本だけ放置された木がある。それは見上げるほどに高く、子供の遊び場になっていた。丘の上からは斜面を埋め尽くす、一面のオレンジ畑と島を取り囲む海が見える。それはまるでオレたちがカクテルグラスの中に放り込まれたようなような風景さ。  近所の女の子とよくそこへ行ったよ。年の近いヤツといえばソイツだけだった。彼女は木登りが得意で、高い所にできた実をとってはオレにキャッチするように言った。落ちてくるオレンジは木の枝や幹にあたって、どこに落ちるのか分からなかった。太陽の光に目がくらむこともあった。  オレがキャッチしそこねるとアイツは「メジャーリーガーになりたいんならそれくらい取りなさいよ!」と言った。 「野球はそういうスポーツじゃねえ!」とオレは何度も抗議した。でも、聞き入れられることはなかったよ。  レフトの守備につく時、オレが思い出すのはリキュールのような故郷の海であり、オレンジの実を落とす彼女のことだ。どこへ落ちるかわからないオレンジを追うように、オレは打球に向き合う。そこはオレが愛すべきものついて考える場所なんだ。  あのいびつなフェンスを「モンストロ」と呼ぶヤツがいる。だが、バケモノは恐れちゃダメだ。恐れているヤツに牙をむく。常に愛をもって接するのさ――。  インタビューにはこう答えてきた。だが、お硬い記者の反応はイマイチだ。だから今度、レフトの守備について聞かれたらこう答えてやろうと思っている。 「オレンジ畑と青い海に聞いてくれよ」
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