04.***約定***

1/1
667人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

04.***約定***

『真桜……と言ったか?』  言霊が持つ強烈な響きに、真桜が一瞬息を呑む。しかし慌てて頷いた。 『我と約定を交わせ』 「約定……」  神との約定、重い言葉に繰り返すのが精一杯だった。 『待て、これは『人間』だぞ!?』  華守流の仲裁に、アカリは嫣然と微笑んでばっさり切り捨てる。 『人間? 厳密には違うであろう』 「……っ」  反論できずに唇を噛み締める華守流の肩を叩いた華炎が一礼して、アカリへ敬意を示す。しかし言葉はひどく辛辣だった。 『血筋はどうであれ、これは『人間』の範疇に入る。もう少し気を使ってもらえると有り難い』  ふむ……考え込む様子を見せたアカリが首を傾げる。さらりと流れた黒髪を風が掬い上げ、複雑そうな顔をしている真桜の呟きも拾い上げた。 「さっきから……これ、これって…」  華守流とアカリに続いて、華炎まで…。  そんなニュアンスの憮然とした声に、華炎が苦笑いする。 『我の約定は大したものではない。この身が地上にある間、真桜と共に暮らしたい』 「一緒に?」  そんな些細なものでいいのか? 疑問を込めた真桜の問い掛けに、アカリは(おごそ)かに頷いた。 『代わりに…お前を護ってやろう』  物理的な意味も、精神的な意味も含めての目守(まも)ると告げる彼は魅惑的に微笑む。  じっと見つめる行為は無粋で、神族であるアカリにとって不快な筈だった。だが、この者から感じる視線は心地よい。それが地上での生活を共に望む理由でもあった。  どうせ高天原から逃げてきたのだから、地上では好きに過ごしたい。  気に入った人間に加護を与え、代償に隣にあることを望むのは破格の待遇だった。アカリにとって不利とは言わないが、真桜の利点が大き過ぎる。  眉を顰めていた華守流が『……信じられん』と小さく呟いた。 『返答はいかに?』  神が人間に返答を求める。そこまで譲歩しているアカリに対して、華炎も華守流も反対は出来なかった。  ちらりと視線を向けて「いいよな?」と問いかける真桜へ重々しく頷く。 「よろしくお願いします」  にっこり笑顔で頭を下げた真桜の態度に、アカリは口元を押さえて笑い出した。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!