01.***接触***

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01.***接触***

 最初は噂だった。  聞き流せばよかったのに、確認しなければ……と強く思ったのだ。それがすでに運命の導きだと知らず。  時は平安、京の都は魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する闇との境目だった。碁盤の目のように整備された通りが重なる(つじ)は、闇への入り口が開いている。 「禁っ」  只人には見えない入り口をひとつ、短い(しゅ)で封じた。  冷たい風が吹き、思わず首を竦めた青年はクシャミをして首を竦める。丑の刻を過ぎ、天上を過ぎる満月が清浄な光を注ぐ地上は、完全に闇と魔の時間だった。 「……っとに、今日は冷える」  ぶるっと身を震わせた青年は、朱雀(しゅざく)大路に1人立ち尽くしている。都を守護する南の朱雀門と羅城門の間を繋ぐ通りは、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。  姫君達へ通う公達(きんだち)も、さすがにこの時刻に出歩くことはない。 『寒いのか?』  ふわりと周囲の温度が上がる。同時に、首に巻いていた薄絹を摘んで頭から掛け直してくれる手に気づいて微笑んだ。 「ありがと、華炎(かえい)」  礼を言う先には誰もいない。否、人間ではない式神があるのみだ。顔の半分を長い前髪で隠した長身の式神の隣に、別の式神が現れる。 『貴様、まだここにいる気か?』  呆れたような口調で呟く彼は、黒髪をきゅっと一つに縛った几帳面そうな顔立ちを歪めた。どうやら寒空に立ち尽くしている主人が気に入らないらしい。 「……丑三つ刻まで待って来なけりゃ、帰るよ」  叱られた気分で呟いた。  式神を使役する青年が只人(ただびと)の筈はなく、彼は陰陽寮でも並ぶ者がない陰陽師だ。  悪霊退治から恋占い、雨乞いに至るまで…オールマイティにこなす青年は帝の覚えも目出度い存在ながら、常に表舞台を避けていた。 「……っ!」  思わず息を呑む。  肌を突き刺す冷気は、冬の夜の気温を下回る鋭さを纏っている。  どうやら、待ち人来る……噂の幽霊が顔を見せるらしい。 『お前…何者だ?』  朱雀大通りの辻にふわりと現れた美人は、陰陽師を見咎めるなり小首を傾げた。
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