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03.***誓言***
重なった唇に、状況の理解できない真桜が固まる。その白皙の頬へ手を滑らせ、アカリと名乗った美人は蒼い瞳を細めた。
「え、えっと……あの、っ」
我に返って慌てふためく姿に、くすくすと笑い出したアカリが再び顔を近づける。
『気に入ったぞ』
「え? あ…」
口を開いて言葉を探した真桜は、とりあえず見つけた言葉を返した。
「ありがとう、ござい……ます?」
疑問系ではあるが、それも気にせず…黒髪を揺らしてアカリは傲慢な笑みで頷く。
『……真桜から離れろ』
低く唸るような声で威嚇する華守流に、アカリは目を細めた。
天津神の三貴子である天照大神の眷属であり、高天原を統べる彼女に近しい存在として羨望と畏敬を集めてきたアカリにとって、地上はひどく好奇心を擽る場所だ。
そして、地上に住まう人々もまた……然り。
人外が数人加わったところで、気にするほど神経の細い神族でもなかった。
「あの……華守流は少し気が立ってるだけで」
思わず弁護しようとした真桜の唇を指先で止め、振り返ったアカリは華守流と正面から向かい合う。己の主を護ることに存在理由を見出している華守流へ、嫣然と微笑んだアカリが小首を傾げた。
『何故、これを護ろうとする?』
『これ』と表現された真桜が複雑そうな顔をするが、華炎は緑の瞳を瞬いただけで口を挟まなかった。
憮然とした顔の華守流が切り返す。
「俺は真桜と誓約を結んだ。誓いの言葉は我が命より優先される」
『……誓約…』
真桜に従属したのではない。屈服させられたのでもなく…対等な立場で互いの利益に繋がる誓約を交わした。
堂々と言い放った華守流の誇らしげな口調に、真桜が付け加える。
「華守流も華炎も、オレの大事な存在なんだ」
傷つけないでくれ。
言外に匂わせた願いを感じ取り、アカリは思案気に視線を伏せた。
『大事な……』
複雑な感情を浮べた蒼い瞳と、ただ冷たく単調な声。アカリの顔から表情が消え、人形めいた美しい容貌を月光が照らし出した。
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