1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
ゴーグルをはめると、目の前には樹海が広がっていた。
小鳥のさえずりや木の葉が擦れる音が聞こえ、僕たちは木刀を持ち、旅人の服を着た冒険者となっている。
何というリアリティだろう。とても2年前に出たとは思えないできだ。
「す、すごい…」
『敵が来るよ』
僕が木刀を構えると、鳥が一斉に枝からはばたいた。
枝葉をかき分けてオークが姿を見せたのだ。
その顔は豚顔でいかつく、皮膚はごつごつしていて、体も引き締まっている。こうみるとまるで鬼のようにも見えてくる。
オークは僕たちを見ると牙を剥いて唸り声をあげた。
『行くよ!』
駆けだすと、バトルミュージックが再生された。
オークの棍棒が振り下ろされると、近くの樹木がなぎ倒された。
僕は素早くステップで避けると、オークの側面に回り込んで、後頭部を木刀で殴り付ける。
すると、オークの頭上に表示されていた緑色のバーにダメージが表示され、一気にバーが赤くなり、オークが崩れ落ちて消滅した。
すると、戦闘勝利の音楽が鳴り、目の前の樹海は真っ暗な空間へと戻った。
ゴーグルを取ると、そこはいつものコンピューター室だった。
結奈は顔を赤らめて興奮気味のようだ。
「すごい、すごいよ…優斗君!」
『まあ、リアルさが売りのゲームだからな』
「…でゅふふふふふ」
まさか…
「もし、今のオークに負けたら…優斗君は…オークの戦士に…」
恐る恐る結奈を見ると、結奈は頬だけでなく耳まで真っ赤にして、ワケの分からないことをつぶやいている。
僕は、実に危険な女にエサを与えてしまったようだ。
ん、結奈が僕が持っている説明書をじっと見たぞ。
「何か書いてあるよ。パンドラの箱…エルピス?」
『これを残した先輩がメモでもしたのかな?』
僕はこの時、この言葉の意味を深く考えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!