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ある団地の庭の書斎にて
ドスーン
また、建物全体が揺れるような大きな音が響いた。多分、また隣りの隣りの部屋だろう。ここ最近いつものことで、私はもうさしてそのことに驚くこともなくなっていた。
「ああああ~」
今度は男の深くくぐもった怒りを帯びた叫び声が、不気味に聞こえてきた。
私はほろ酔い加減でベランダに立った。心地の良い夜風が体を拭きぬけていく。隣りの隣りの部屋の喧騒とは裏腹に、団地の周囲は不気味なくらい静寂に包まれていた。
今日はやたらと月が眩しい。私はまだ少し残ったビール缶を片手に周囲に広がる静かな闇を見つめた。
梅雨も半ばを過ぎて、急に暑さも本格的になってきた。足繁く降った雨をたっぷりと吸い込んだ大地が、そこに生きる草花を壮大に繁茂させ、いつの間にか見慣れた景色を一変させていた。
私の知らないところで、私の知らない何かは確実に蠢き生きている。明日の予定もないままに、だらだらと過ぎ去る時間を生きている私に、それは何か畏怖すべき営みに思えた。
私はいつものように昼少し前に起き、トイレに行くと、いつものように無気力な意識のままコーヒーを淹れるべくキッチンへと向かった。
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