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少女の長いきれいな黒髪のおかっぱ頭は、脂ぎって頭皮にへばり付いていた。少女が着ているこの季節に似つかわしくないアニメキャラクターのプリントの付いた赤紫色のトレーナーは色あせた上に汚れ、首筋の部分は擦り切れ穴が開いていた。
少女は相変わらず止めどもなく涙を流し、父親なのか私になのか、その両方になのか、怯え固まっていた。よく見ると左の頬が少し腫れているようだった。
どうしたものかと考えていた私は、ふと自分が幼い時に、近所の知らない家の中に迷い込んでしまった時のことを思い出した。その家にはおじいさんがいて、そのおじいさんと廊下で突然鉢合わせになった。その時、私はどうしていいのか分からず泣き出してしまった。今思えば多分、おじいさんの方が相当驚いたに違いない。しかし、そんな私を見て、おじいさんは何も言わずなぜか静かに飴玉を差し出した。
あいにく私の家に飴玉はなかったが、何かないかと思いめぐらした瞬間、コーヒー用の何かでもらった角砂糖があることを思い出した。
私はその角砂糖の入った瓶をキッチンカウンターの上に見つけると、ふたを開け、一つ取り出し、少女を怖がらせないよう少女の方にゆっくりと歩み寄り、差し出した。少女は涙を流しながらも素直にそれを受け取り、直ぐに口に入れた。少女は泣きながら、まるで口だけを別の生き物のようにもぐもぐとしばらく動かしていた。
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