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私はコーヒーの入ったマグカップを片手にベランダに出ると、そこから見える団地の敷地を見回した。団地の庭はもう、ジャングルのように荒れ放題に荒れ果てていた。もともと、直ぐ隣りが山で、鬱蒼とした森になっていたところに、ここ何年も敷地内の手入れがされなくなり、完全に山と敷地は同化し、野生化してしまっていた。身長よりも高い草が生い茂り、庭に植えられていた庭木も伸びるがままに巨大化していた。
私は、突如思い立ち、その荒れ果てた庭に降り立った。ベランダから少し離れたところに、枝を、使い勝手のいい傘のように横に大きく広げた程よい大きさの木が立っていた。私はその木の下まで行くと、手にした錆びたカマでその場の草を刈り始めた。
私は自分の空間をそこに造ろうと思った。私だけの快適な空間。だが、それは思った以上に重労働だった。運動不足の私の体に、慣れない姿勢での草刈りの一つ一つの動きが、ギシギシと体に響いた。
大粒の汗を吹き出し、蚊に刺され、虫にたかられ、それでも私は草を刈り、地を慣らし、ほぼ一日をかけ、その空間を作り上げた。そして私は部屋から机を持ってきてそこに置き、椅子を置くとその上に必要なものを並べた。
出来上がった私の空間は長い草丈が横からの、木の枝が上からの視線を完全にシャットアウトしてくれて、そこは団地の敷地でありながら完全な私のプライベートな空間になった。私はその改めて完成した空間を見つめ、想像以上の出来栄えに私は子供のように興奮した。
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