第1章

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 キャンプに逃げ帰ったオレは、一睡もできないままキャンプ最後の朝を迎えた。目の下にクマをつくり、明らかに顔色が悪いオレをみんなが心配してくれたが、二日酔いだと言い訳してごまかした。  荷物を片付け車に積みこんでいると、ケンジが顔をしかめた。 「おいソウタ、なんか臭うぞ」 「え?オレが臭いの?」 「なんか腐ったようなにおいがする」  オレは自分の着ていたシャツのにおいをかいでみた。たしかに、嫌なにおいがする。まったく気がつかなかった。さっきから女子が近寄ってこなかったのは、このせいだったのか。それにしても、なんでこんな臭いがついたのだろう。 「おーい、こっちにきてみろよ。夜光虫がいるぞお」  テトラポットが積み上げられた防波堤の向こうから顔を出したタク先輩が手を振っている。作業を一時中断し、みんなでタク先輩のもとに集まった。 「げ、なにあれ」  だれかがそう声をあげた。テトラポットの間を漂う海水が、なんだか茶色っぽく濁っている。 「夜光虫なんてどこにもいないじゃないですか」  またキレイな写真が摂れると思い、スマホカメラをスタンバイしていた女子の一人が文句を言った。 「あれは赤潮だ。赤潮はプランクトンが異常発生して赤っぽい色になってるんだけど、夜光虫も赤潮の原因となるプランクトンなんだよ。ほら、なんか変な臭いがする。これも夜光虫を見に行ったときと同じだろ」  えー、とみんな口々に驚きの声をあげた。  赤潮についての説明をタク先輩がはじめたが、ほとんど誰も聞いていないようだった。オレも、夜に見た幻想的な青白い光と目の前にある濁った茶色が同じものからきているとは思えず、呆然とした。ということは、このシャツの臭いも、昨夜の夜光虫のせいなのか。なんだか一気に興ざめした気分になった。  その後、見ても特に面白くもない赤潮に飽いたみんなは、最後にお世話になったナミの店に挨拶に行こうということになった。  みんながクマのような店主にお別れを言い、一緒に遊んだ男の子にまた来るからと約束をしているのを眺めていると、 「ソウタくん」  と後ろから呼ぶ声がした。  聞き覚えのある、柔らかい声。振り向くと、そこには店主とおそろいのタオルを頭に巻いた、店主の奥さんがいた。奥さんは、サンバイザーとサングラスを外し、首の後ろで無造作に束ねられていた髪を解いた。 「昨日は驚かせてごめんなさいね」
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