第1章

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? ごめんねとだけ言い残し、リコは去っていった。その後姿を、オレはただ呆然と見つめることしかできなかった。  大学の映画サークルのメンバーと海辺のキャンプ場に着いたのは今日の昼過ぎのことだった。あの時はまだ、これから二泊三日を友人と恋人と過ごすのを楽しみにしていた。わずか数時間後に、こんな悲劇が待っているとは思ってもいなかった。  そしてさらに悪いことが起こった。悲劇はそれで終わりではなかった。 「おい、ソウタ。あれどうなってんだよ」  その日の夕飯はバーベキューだった。とても参加する気になれず、少し離れて缶ビールを黙々と空けていたオレの隣にケンジがやってきた。ケンジは同期で、サークルの中では一番気の合う友人だ。ケンジはバーベキューを囲む和気藹々とした輪の一部を指した。そこには、仲むつまじく肩を寄せ合うリコとコウイチ先輩の姿があった。 「リコとは別れた」 「いつそんなことになったんだよ」 「ついさっき」  あんなに仲よかったのに、と言ったっきり、普段はお調子者のケンジも黙り込んだ。さすがにオレにかける言葉が見つからなかったのだろう。ケンジにはリコと付き合いだしてからずっといろんなことを相談したり、のろけたりしていた。オレがこのキャンプを楽しみにしていたことも、よく知っている。  ケンジ以外のサークルメンバーも、たまにちらりとオレに哀れみの視線を送ってくるのが辛かった。そして何より、コウイチ先輩も同じ視線を送ってくるのがたまらなかった。オレはちょっとトイレと言い訳をして、賑やかさに背を向けた。
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