第1章

6/13

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 翌日。幸い二日酔いにもならず、すっきりと目覚めた。おかげで広い砂浜でサークルメンバーと思いっきりはしゃいぐことができた。示し合わせたように誰もなにも聞いてこなかった。昨夜の様子を見ればオレとリコになにがあったのかは一目瞭然だからだろう。オレは気を取り直し、当初の予定通りキャンプを楽しむことにした。  それともう一つ、オレがそうして遊ぶ目的があった。それは、昨夜会ったあの女性を探すことだ。このあたりには民家はなく宿泊場所はオレたちが泊まっているキャンプ場と少し離れたところにあるホテルしかない。あんな時間に海にいたということは、きっとキャンプ場の宿泊客に違いない。それなら、昼間はビーチにいるはずだ。もう一度、今度は明るい太陽の下であの女性に会いたいと思ったのだ。 「どうしたんだよ、ソウタ。さっきからキョロキョロして」  そう言ったあと、ケンジはしまった、というような顔をした。オレがリコを探していると思ったのだろう。そうではない、と言いたかったが、昨夜のことを説明する気にはなれなかった。例の二人は早々にどこかに姿を消してしまった。それには気がついていたが、不思議なくらいまったく気にならなかった。そんなことよりも、あの女性のことが頭を占めていた。 「昨日だっていつのまにかいなくなってたから、心配したんだぞ」 「ちょっと散歩してたんだよ」  ケンジは神妙な顔をした。 「その、リコたちを探してたのか」  どうやらあの二人も昨夜こっそりいなくなったらしい。そんなに二人きりになりたいなら、サークルメンバーが大勢参加するキャンプになんか来なければいいではないか。わざわざキャンプの初日を選んでオレを振ったのは許したとしても、周りに気をつかわせるようなことは控えてほしいものだ。あまりの無神経ぶりにげんなりしてしまう。 「そんなんじゃない。もうリコのことはいいんだよ」  本心から言ったのだが、ケンジはあまり信じてくれなかったようで、似合わない表情のままだ。ケンジもこのキャンプを楽しみにしていたのに、心配をかけ続けていることが後ろめたくなったところに、遠くからオレたちをを呼ぶ声がした。昼食にしよう、とのことだ。 「ケンジ、傷心の友達におごってくれるよな」 「なに言ってんだよ、それとこれとは別だろ」 「カレーとコーラな。あ、コーラじゃなくてビールでもいいぞ」 「なんでグレードアップしてるんだよ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加