1章 繭玉と怪異

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劣悪といえば劣悪な環境なのだが日々の食事は治療代がわりにいただけるし、時おり老比丘尼が差し入れにも来る。 何より、仮宅のすぐ傍に小川が流れているのが幸いだった。水辺さえあれば暮らしは何とかなるものだ。      盗られるものなど何もないのだが一応用心のために閉めておいた格子を開けて風を通すと、塩竈の背からおろした巨大繭を板間に移し置く。      着替えるとまた外に出て、ジーワワジワワとやかましい夏の糞虫に舌打ちをし、いくらでも噴き出す汗を拭って、塩竈と並んで小川に口をつけた。 それから庵に戻り、小上がりに座した手に剃髪用の剃刀を取る。
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