1章 繭玉と怪異

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体を覆う髪も伏せた睫毛も白く、そのなかで一点、はじめ桜花弁かと疑った唇だけが薄紅に色づいている。 生きているのか死んでいるかも分からない。空穏はまず丸まった四肢を一本一本丁寧に伸ばした。たやすくそれはできたから、死後の硬直状態ではないらしい。 期待して首の脈を診ると、微弱ながら生の気配が感じられる。 横倒しのままの体を仰向けに広げ、さらに全体を伸ばしてまじまじと見下ろし、また息を飲んだ。 「塩竈……おい塩竈。恐ろしいものではないから、見よ」 視線は逸らさず指で来い来いをすると、情けない雄牛が藁から鼻を出し「本当ですかぁ」と這い出してくる。 びくびくと主人のそばに来て白い人体に気づくや、塩竈は目をまん丸とさせてじっと見た。それからふにゃりと目尻を下げた。鼻の頭は赤くなっている。
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