1章 繭玉と怪異

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死期を悟った蚕は生成り色の身を八の字にくねらせ、口から吐き出した粘液を狭い木箱の壁につける。それから、ごく細い糸を引く。 上手く糸がのびると、また体をくねらせ壁に口をつける。 そうやって一糸一糸、気の遠くなる作業を繰り返すと糸はやがて薄い膜になり、次に縦横無尽の浮織りをして内部が透けて見える楕円になりーーついには乳白色の繭を形作って、蚕はその中で(さなぎ)になる。 光り輝く西陣の至宝。を巨大にした物が、今まさに目の前に浮かんでいるのだ。 「空穏さん空穏さん」 口を半開きにしてつっ立つ主人を茶色い雄牛が鼻頭で小突く。 「いつまでそうしてる気なんですか。もう帰りましょうよ、ねえ」
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