2章 繭から生まれた……

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空穏は幼い子供を説き伏せるように平易な言葉を選んで経緯を話した。患者は始め黙って下を向いていたが、 「してお前は何ゆえ繭などに包まれ、湖に浮かんでいたのか」 話が核心に迫ると、 「湖に、浮かんで? あたしが ……?」 患者が怪訝そうに口を抑えたので、空穏の方が焦った。 この娘は何も知らないのかもしれない。知らぬ者にこんな奇怪な話をすれば怯えてしまうかもしれない。 「では何か、覚えていることはないか」 「……」 「何だって良いのだ。ひとつくらい思い出す事はないか。名は何と申すのだ」 「名……」 娘は先ほどよりは落ちつきを取り戻したが、やがて寂しそうに、それも分からないと答えた。
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